ピアノ

ピアノの鬼才

ヴァレリー・アファナシエフ

名優は、自身の声とその特異な抑揚を用いて、シェイクスピアの戯曲の有名な台詞に力強く語らせる。同じくマエストロ・アファナシエフも、シューベルトの音楽を奏でるとき、その最も忘れがたい旋律に語らせる——ひとつひとつのフレーズに慈愛をこめ、彼独自の声を用いて音楽に息を吹き込みながら。

この録音には、驚くほど詩的な演奏が収められている。アファナシエフは、見事に、そして胸を打つ美しい雄弁ぶりで、ピアノを語らせている。おそらくそれは、長年のあいだ音楽とともに生き、音楽を知り尽くし、音楽を深く愛するようになり、各フレーズの中に何かを聞き取り、その全てを徹底した配慮のもとで新しく素晴らしいものに変え、聴き手の耳に届ける者だけが生み出すことのできる演奏だ。『シューベルト:楽興の時』(2012)は、この作曲家を愛する全ての人々にとって必聴のアルバムである。

— by Grego Applegate Edward

Valery Afanassiev

 1947年モスクワ生まれ。モスクワ音楽院にてヤコフ・ザークとエミール・ギレリスに師事。ライプツィヒのバッハ国際コンクール(1968年)およびブリュッセルのエリーザベト王妃国際音楽コンクール(1972年)で優勝を飾った。1974年に政治亡命者としてベルギーに保護を求め、現在、同国で暮らしている。
 アファナシエフはこれまで、みずから執筆した解説を添えたアルバムを約70作リリースしている。彼のねらいは、作曲家の意向をめぐる自身の洞察の全体像を聴き手に示すことにある。この試みは、アファナシエフが詩的な錬金術を展開する実験工房への“ガイド付きツアー”にたとえられる——そこでは、詩、哲学、絵画、カバラ、さらにワインまでもが、記譜法と同等の規準として扱われうるのである。

アファナシエフは現在、ソニー・クラシカル・レーベルと録音契約を結んでいる。6枚組のボックス・セット『テスタメント(遺言)/私の愛する音楽』は、2019年度の音楽之友社「レコード・アカデミー賞」(特別部門)に輝いた。

 またアファナシエフは、数年にわたり世界各地の様々なオーケストラを指揮してきた。彼は、自身が尊敬する指揮者たち——フルトヴェングラー、トスカニーニ、メンゲルベルク、クナッパーツブッシュ、ブルーノ・ワルター、クレンペラー——が織りなしたサウンドとポリフォニーの一端を表現できるよう努めている。

 作家でもあるアファナシエフは、ダンテの『神曲』の評釈をまとめた大著を含む多数の小説、詩集、随筆集を執筆している。さらに、《展覧会の絵》と《クライスレリアーナ》から霊感を得た2つの劇作品を書き上げ、みずからピアニストおよび俳優として4か国語で上演した。またアファナシエフはカフカの『流刑地にて』にもとづく戯曲を完成させ、同作品内ではモートン・フェルドマンの《マリの宮殿》を演奏している。

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